スマホ社会の今、受話器マークを使う理由

スマホ社会の今、受話器マークを使う理由

2023年8月30日
レポート

「電話」を表すこのマーク。
地図や印刷物、Webサイトなどで広く使われています。
皆さんのスマートフォンの「電話」にもこのマークが使われているのではないでしょうか。

しかし、スマートフォン保有率が96%を超える今、なぜ「固定電話の受話器」がモチーフとして使われているのでしょうか。

スマートフォンで通話することが多いのに、マークは固定電話・・・少し違和感がありませんか?

※モバイル社会研究所「スマートフォン比率96.3%に:2010年は約4% ここ10年で急速に普及」
https://www.moba-ken.jp/project/mobile/20230410.html

そこで今回は、受話器マークが使われている理由を考えてみました。

*このような図記号は「アイコン」「ピクトグラム」などとも呼ばれますが、本記事では「マーク」と統一して称します。

受話器マークが浸透するまで

まず、受話器マークのルーツについて触れたいと思います。

「電話」マークが公に使用されるようになったのは、1964年の東京オリンピック開催時。ピクトグラムの一つとして採用されたことが始まりです。 当時は黒電話がモチーフでした。

ピクトグラムの背景については以下の記事もご覧ください。

ピクトグラム・アイコンと“わかりやすさ”の関係性とは?
みなさん、日常生活でピクトグラムやアイコンを目にすることがあると思います。 オリンピック開会式では、ピクトグラムの演出が大きな話題となりましたね! 今回は、ピク…
tsunagaru-design.jp

その後、利用者のニーズの多様化やバリアフリーの観点などから、マークの一層の充実・統一化の必要性が高まっていきました。
そして、2002年の日韓共催サッカー・ワールドカップを見据え、「公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団」が統一基準の策定と、JIS化に向けて検討を進めました。
2001年には、同財団が「標準案内用図記号ガイドライン」を策定し、2002年に「JIS Z 8210 案内用図記号」としてJIS化されました。
このときには、電話を表すマークは受話器がモチーフになっています。

公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団HPより一部抜粋https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/picto_001%E3%80%802021.html

さらに2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、2017年にガイドラインとJISが改訂されました。いくつかのマークがよりわかりやすく変更されましたが、受話器マークは変更されず、現在に至っています。

(参考)変更されたマーク

日本規格協会HPより抜粋
https://webdesk.jsa.or.jp/common/W10K0010/?post_type=book_common&page_id=JIS_Z_8210_2

受話器マークは単なるシンボルの枠を超えて、標準化された案内表示として存在してきたことがわかりました。
案内表示に関するJIS規格には、「これを使わなくてはならない」という法的拘束力はありません。

しかしマークを使う側は、より標準化され多くの人にわかりやすいものを使いたいと考えるでしょう。そして見る側も、日常で目にする機会が多いほど、マークの認知を深めていくのではないでしょうか。

受話器マークが広く使われている理由として、JIS規格に準拠しているという背景要因は大きいと思います。

受話器マークの特徴

ここからは、マークの特徴に焦点をあててみたいと思います。

特徴① 案内表示に多く使われている

前述のとおり、受話器マークは公共施設の案内表示として広く使われてきました。
公共施設での「電話」は、公衆電話などの固定電話を指すので、受話器マークを使うことが自然です。
また、高速道路やトンネルにある非常電話の表示も、見かけたことがある方は多いのではないでしょうか。

これらに共通しているのは、このマークを必要とする人が「どこかに連絡する必要があるが、スマホが使えない」という緊急の状態にあるということです。
そうした場面では、直感的に見つけられる表示が必要であり、広く認知されている受話器マークが適しているといえます。

特徴② シンプルなデザイン

受話器マークはとてもシンプルで、小さくても見やすいです。
そして、受話器の形状を端的に表現していて、他のマークと間違いにくいです。

羽田空港フロアマップより

このフロアマップの中には、受話器マークがいくつあるでしょうか。小さくても意外と見つけやすかった、という方も多いのではないでしょうか。(答えはブログの最後に)

また、シンプルだからこそ、他のマークとの組み合わせや、色・角度の変更などによって、意味を加えることも可能です。

◆ 組み合わせ【タクシー呼び出し】

色の変更【電話と国際電話】

イクスピアリ 館内マップより

色と角度の変更【応答と拒否】

この着信画面の例のように、角度の違いで異なる状態を表現できるマークはほとんどありません。これは受話器マークの大きな特徴ではないかと思います。

特徴③「通話」そのものを表している

スマートフォンは通話の他にも、インターネット・メッセージ送受信・カメラ・決済用ツールなど様々な役割を持っています。
対照的に、受話器(固定電話)の機能は「通話」のみです。

そのため、「通話」を表したい場合は、受話器マークが適しているといえます。

以下の例をご覧ください。

ヤマト運輸 スマートフォンHPより

「スマホで送る」と「電話で集荷」でマークが使い分けられています。
このマークの違いによって、「スマホで送る」は【入力】、「電話で集荷」は【通話】という、以降の操作が直感的にわかりやすくなっています。

このように、「通話」そのものを表したいときに、受話器マークは効果的です。

まとめ:受話器マークの存在とは

ここまで見てきて、受話器マークが単なる慣例ではなく独自の存在意義をもって使われていること、私たちが無意識のうちに、マークから様々な情報を受け取っていたことがわかりました。

そして、スマートフォンの保有率が高いことと、受話器マークの存在意義は、切り離して考えるべきだと思いました。

「電話」を表すマークの使い分けはすでに行われており、日常の中で色々なデザインを目にします。

電車内の通話禁止ステッカー

撮影禁止マーク

これらのマークとすみ分けながら、受話器マークもまだまだ活躍し続けることに期待しています。



(受話器マークの数の答え:12個)

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